原一雄 先生からの質問状への回答(その1)

ICU-196670中心-再考プロジェクト」への原一雄先生からの当「ウェブ・サイト開設者」への質問は10項目です。回答が大変遅くなってしまいましたが、非常に大きく広いテーマなので、今後1項目ずつ私たちの回答(まだ見解といえるような形になっていないので考察として)を載せる予定です。今回はその1問目です。

 

10項目の質問の中の1つめの問いは、「一連の学園騒動」(原先生は196512月の「生活協同組合の誘致」から19696月までを列挙されています)について、「何処にわれわれ教職員が執ろうとした本学固有の学生指導方針(大学設置要項12項目)とその実践上の方策に問題が潜んでいたのであろうか?」「それとも(中略)あの時代の教育機関としては看過し容認すべき事柄であったのであろうか?」と問いかけられています。

 

後者のように簡単に見過ごすべき問題でないのはもちろんですが、以下に述べる前者の「本学固有の学生指導方針(大学設置要項12項目)とその実践上の方策」にも、根本的問題ではないにしろ当時のICUの状況にそぐわなくなってきたものがあり、また学生側の対応にもどこかに問題があり、事態が深刻化したものと思います。それらについては今後、原先生の質問項目順に、当時の関係者やこの問題に興味を持つ方々の疑問やご意見なども交えながら、私たち(当ウェブサイトに代表される活動、「ICU史再考プロジェクト」主宰者―根本、村田)でICUの成り立ち・そして現在・未来にもつながる大学紛争時の問題点を指摘していきたいと思います。

 

ICUの大学設置要項12項目については、原先生が2017年に出された回顧録の前篇『ICU回顧録-幻を追い求めて-』(8頁目)に記載されていました。

それは、

国際基督教大学 設置要項

1.目的及び使命

国際基督教大学は、基督教の精神に基づき、自由にして敬虔なる学風を樹立し、国際的強要と社会人としての良識とを有する指導的人材を要請することを目的とする。

    本学は国際的協力に依り設置されるものであり、その名称の示すごとく基督教精神、国際親善並に民主主義を強調し、下記各項を強調重視する「明日の大学」たらんことを期する。

(1)  学問の自由を操守し、総合研究を奨励する。

(2)  独立の思索能力と科学的批判力の涵養に努める。

(3)  教育に精進し、絶えず批判と評価を通してその進歩改善に努力する。

(4)  実社会との生きたる連繋を保ち、高遠なる真理が民主社会の原動力となることを謀る。

(5)  教授は本邦のみならず広く世界各国にわたってこれを求め、すべて基督教徒にして学識人格共に卓越せる学者、教育家をもってこれに充てる。

(6)  学生は男女共学とし、人種、国籍、宗教の如何を問わず、本学建学の趣旨に共鳴して入学を希望する者の中より、その人物、志望、健康、思想、家庭、学力、指導的素質等を考慮して厳選収容する。

(7)  日英両語を学園用語として学園生活を実現する。

(8)  全寮主義を原則とし、教授と学生との民主的共同生活により人格の陶冶及び学問と生活との一致をはかる。

(9)  学園内にコミュニティ・チャーチを設け、宗教生活の徹底をはかり、基督教的人生観と世界的エトスの確立を期する。

(10)   健康教育の徹底を期し、衣食住の合理化をはかる。

(11)   学生の人格を尊重し、学習、生活、職業及び人間関係等に監視補導制度を整備し適切なる個人的ガイダンスを与える。

(12)   農園労働、学園美化、寄宿舎運営等とその他の労働と奉仕の体験を通し、労働尊重の精神と自治、自立の道を習得せしめる。

以上、原先生によればこの大学にとって「『憲法』に当る」12か条は毎年度の『国際基督教大学要覧』の冒頭に掲げられてきたけれども、語句が少しづつ変化しているそうです。 原先生は1982年、1988年の研究発表時等にこの12か条の再検討も提案したそうですが、その後も行政部や教授会からのきちんとした反応はなかったそうです。

 

これらの指針は全て現在のICUの状況や社会の変化に合っているのでしょうか?

  (5)の「教授は本邦のみならず広く世界各国にわたってこれを求め、すべて基督教徒…」という点、教授の条件を基督教徒に限っている点、これはいわゆるクリスチャン・コードと呼ばれるものです。堅持すべきという意見がある一方、非クリスチャンからも幅広く教授を募るべきではないかという意見があり、大学関係者、学生、OBOG)たちに公開の場でも議論して考えていくことを提案したいと思います。幅広い出身期の卒業生らによる「ICUを考える会」(代表:三宅一男氏―8期生、1964年卒業)とは、2年半程前に数度のやり取りがあったきりですが、今後の連繋を希望します。(三宅氏は2年前2019年の11月1日にICU祭でのイベントで講演をしてくださいました。ICU祭のそのイベント担当者はICUの大学紛争(闘争)を学内メディアWEEKLY GIANTSで取り上げてくれた学生さんになって頂き、開催を手伝ってもらいました。三宅氏の講演を再現し本サイトに掲載することは私たちがまだできていない課題です)

 

  (8)の全寮主義ですが、その効用はもちろん非常に大きいものの、これについても、キャンパスの有効利用、通学者達の視点等からも、再考の余地があると思います。また紛争(闘争)時に寮がどのような役割を果たしたのかもよく検証する必要があるでしょう。

 

  (12)の、「農園労働、学園美化、寄宿舎運営等とその他の労働と奉仕の体験」も学内での(野尻湖キャンプ等は別)活動としては行われておらず再考すべきと思われます。

 

                ICU史再考プロジェクト 主宰 根本敬・村田広平 (2021年7月31日)