「学生と歴史」を考えるお薦め本ガイド2


ノンフィクション部門

 

『建築家ヴォーリズの「夢」戦後民主主義・大学・キャンパス』高澤紀恵/山崎鯛介 編 勉誠社 2019年

ヴォーリズという人が描いた理想のキャンパスとしてのICU、またICU本館は中島飛行機三鷹研究所であり戦争遺産でもあること等々、ICUの場には過去の様々な記憶や夢が宿っている。初期ICUの学生の夢もちろんのこと、海のものとも山のものともつかなかった初期ICUに応募した教職員の夢も補って想像してほしい、とICUに長く勤めた教授から紹介された本である。ICU教授陣の論考が中心であるが、当文章筆者が驚かされたのは、特に第二部第5章の田仲康博教授の指摘である。共に冷戦激化の時代に誕生した、氏の出身大学琉球大学とICUの比較という視点や、辺野古の座り込み現場で、1969年ICUでの座り込み抗議集会の最後尾で機動隊の盾の一撃で重症を負った元ICU女子学生との劇的出会い。(ICU史再考の過程で1969年の学生側資料から知れる彼女はその後どうなったのか、は私たちもずっと気にかかっていた)現ICUの平和研究所によるフィールドトリップ引率者だった田仲氏とICU学生に対して彼女が淡々と自身のICUでの体験を語ったが、機動隊導入の事実以外は武田(長)清子氏によるICU史『未来をきり拓く大学 : 国際基督教大学五十年の理念と軌跡』(国際基督教大学出版局、2000年)にも書かれておらず、田仲氏は知らなかったと告白している。高澤氏によるこの図書の企画、もとになったシンポジウムの開催は画期的であると思う。

『死よりも遠くへ』 吉岡忍 新潮社(文庫あり)1989年 本連作集の一篇「優等生の退屈で冷たい気分」
これは1971年大学入学後政治活動に目覚め卒業後に医大に入り直し将来も期待された青年の躓きから殺人発覚後の自死までを描き、政治活動時の彼を知る人物や彼の患者などへの丹念な取材から、彼を取り巻く当時の社会や、彼が望みながら予備校講師としての活動や政治運動で得られなかったものについても考えさせられる。
60年代の学生運動を体験し自死した若者の遺稿集に、高野悦子の『二十歳の原点』(1971年刊 新潮社)や奥浩平の『青春の墓標』(1965年刊 文藝春秋新社)などがある。全共闘世代で運動体験を経たノンフィクションライター吉岡忍による、昭和に起きた殺人、自殺事件を取り上げた連作集のこのルポルタージュ一篇は、外から学生活動家時代の対象者の心情に迫る傑作と思える。タイトルは安易だが。

フィクション部門

『赤頭巾ちゃん気をつけて』庄司薫 中央公論社 1969年 都立日比谷高校3年生の主人公の生活を、当時の学生運動が盛んな時代を背景に饒舌な文体で描き、話題となった。柴田翔の『されど我らが日々』、三田誠広『僕って何』と同じく芥川賞受賞作。

 

『抱く女』桐野夏生 新潮社 (文庫もあり)2015年 ここまであげた小説の男性主人公に対比される女性主人公。学生運動の時代を生き、主体的であろうとする行動や心理描写が特徴的。同著者の『夜の谷を行く』(2017年 文藝春秋社)は1972年の連合赤軍事件の捉え直しの物語。1969年入学でその年の授業が10月末にICU当局によって鉄冊で囲われた構内で再開された授業再開には応じず翌70年春からのやり直しをした多くの18期学生の一人だった方から文藝春秋連載中に薦められた本。連合赤軍事件は学生運動史を語る上では避けて通れない事件だが、リンチにより多くの犠牲者が出た原因には、リーダーの一人、永田洋子の嫉妬深さ、残虐性などが過度にクローズアップされてきたようだ。

                                (本稿文責 村田)

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